眩しい陽射しが入ってくる。
「んっ」
瞼を擦り、体を起こした。
柱の時計が朝の8時20分を指しており僕は隣にいる筈の竜崎を起こそうと
手を伸ばした。
「竜…崎」
伸ばした先は空で。
僕はその空のシーツをじっくり触る。未だ温もりを感じるシーツ。
此処を離れて余り時間は起ってない。
僕はベッドを離れ、竜崎を探した。
この部屋はトイレ、洗面所、風呂など水周りが完備されている。
僕は余す所なく探し回った。けど竜崎は何処にも居なくて、
僕はベッドに腰を下ろした。
「何処にいるんだ…」
ワタリさんのとこか?それとも又外にいったのか?
取り敢えず僕は服に着替え、ワタリさんのとこへ向かう事にした。
扉の取っ手に手をかけたとき、突如向こうから開き驚いた。
「竜崎…」
そこには何時もと変わらぬ表情をした竜崎がいた。
ただ首筋に昨夜残した情痕をみつけ、あれの夜は本当だったのだと実感した。
「…あの竜崎」
体の事を聞こうとしたら、目の前に写真を突き出された。
「これは?」
目の前の写真を受け取り、じっくり見る。
年齢は多分30代後半40代前半、眼鏡越しの目付きはキツイ。唇は薄く、
髪はピシっと七三に別れており、如何にも典型的サラリーマンといった風貌だ。
一体この写真に何の意味が有るというのだ?
視線を戻すと、少し険しい顔をした竜崎がいた。
竜崎が口を開く。
「昔、ある所に小さな子供が居ました。その子供は家族に愛され素直に育ちました。
端から見ても解る幸せな家庭にある日事件が起きました」
淡々と語る竜崎。僕はその話を聴き入った。
「近所の公園で皆と遊んでいる時です。
他の子が蹴ったボールが林に入ってしまいました。
そのボールを取りにその子は林に入って行きました。
そこにはある男が立っていました。
男はボールを持っており、そのボールはその子が探していたボールでした。
その子が手を差し出すとその男はボールを渡しました。
その子は御礼をいい、その場を後にしました。
その時男が動きました。
隠していたクロロフォルムをその子供に嗅がせ、その子供を誘拐しました」
頭に映像が浮かぶ。
この映像は想像か?でも…
「幾ら待っても帰ってこない友人を皆は心配に思い、皆は其処に行く事にしました。
其処に行くとその子は居なく、その場にはボールしかありませんでした。
皆はその子を必死に探しました。けれど見つかりません。
当たり前です。もうその子は其処には居ないのですから。
ある子は言いました。
もしかしたら家に帰っているのかもしれない。
皆はその言葉を信じその子の家に行きました。
そして出迎えてくれたその子の親に皆はこう尋ねました」
「月くんは帰ってきていますか?」
「……僕?」
真剣な眼差しの竜崎。
戸惑う僕。
「この時の状況をもう一度詳しく知りたく昨日夜神くんのお父さんに
聞きにいきました」
「父さんに…」
雄武返ししか出来ない。
「えぇ。ワタリには少し一芝居うって頂きました」
「一芝居って…もしかして」
「夜神くんの引き止めです」
矢張か…ワタリさんは竜崎が何処に何しに行ったのか知っていたのか…。
「僕への電話ももしかして」
「えぇ。失礼だと思いましたが、此処に来させるように業としました」
「…お前なぁ…」
あの時の僕の心配は一体…
座り込む僕に反省してない調子ですいませんと竜崎が謝った。
「所で夜神くん」
同じ視線に合うよう竜崎も座る。
「なんだよ…」
自然と恨みがましい声が出た。
「この話を聞いた後、この屋敷を見て何か思い出しませんか?」
何か…
何か…
『月くん』
渋い男の声が僕を呼ぶ。
怯える僕に玩具を渡してくる。
『さぁこれで遊びなさい』
渡された物は
「チェス駒…チェス…」
「そうあのチェス盤です」
指された先には昨夜弄っていたチェス盤と駒。
そしてあの場所は…
煌びやかなカーテン、豪華だけど埃臭い部屋、日に焼けた壁紙、
大きなシャンデリアにスプリングが壊れたベッド、そして大きな窓…
「まさか…」
嫌な予感に汗が出る。
胃がキュルキュル鳴り、吐き出しそうだ。
「そう、貴方が誘拐された場所、そして発見された場所です」
「あっ」
無くしていた記憶が怒涛のように押し寄せてきた。