僕の住む団地に少し寂れた洋館がある。
其処は曰くつきの場所でよくアレが出るらしい。
アレはボサボサの髪をし、よく外を眺めているみたいらしい。
近所の通説だ。
僕は未だアレに会った事が無い。
でもアレに会ったらこの退屈な日々は、少しは充実するのかな。
「月、忘れ物は無い?」
「大丈夫だよ、母さん。母さんは少し心配性だ」
そう?と片手を頬に当てる母にそうだよとはにかんだ笑顔で答えた。
「ぎゃっ!!遅刻遅刻ぅ〜」
バタバタと階段を駆け降りて来たのは妹の粧裕で、今起きたばかりなのかパジャマ姿だ。
「粧裕!貴女未だ寝ていたの?お母さん一回起こしたでしょ?早く支度しなさい!!」
はぁ〜いと間延びした返事が聞こえた。
母が心配性なのはこの妹の所為かな?
「じゃ母さん行ってくるよ」
妹を気にかけている母に挨拶し、僕は家を出た。
僕の家族は至って普通で、父は警察庁で局長を勤め、母は優しくしっかり者で少し心配性、
妹はとても愛嬌のある今時の中学生。
僕は自分で言うのも何だけど学年でトップクラス、勉強も運動も全てオールマイティにこなす。
皆理想的だとか羨ましいというが、僕には普通で退屈だ。
何もかも退屈。
学校も
級友も
生活も
家族も
この世界も
何もかもが退屈でつまらない。
僕は刺激が欲しい。
充実感で満たされたいだ。
帰り道、皆と別れ僕はふと洋館の噂を思い出した。
(少し遠回りになってしまうが、寄ってみようか)
期待を胸に僕は洋館へと足を延ばした。
周りはマンションやアパート、一軒家という中、其れは別世界のように逸した佇まいで其処にあった。
蔦が館に絡まり、草木は枯れ真ん中に大きい窓とバルコニーと如何にもという風貌のそれは
この闇夜にマッチしていて、嫌でも心踊る。
僕はその大きな窓を見上げた。
少しカーテンが開いている。
きっと其処からアレは眺めているのだろう。
見上げて数分、カーテンが少し動いた。
僕の視線に気付いたのか?
きっともうすぐアレが出てくるに違い無い。
僕は高鳴る胸を抑え、カーテンの奥を一心不乱に見上げた。
案の定アレが姿を表した。
月の光ではっきり見える。
やたら色が白く、髪はボサボサ、目はギョロギョロし指をくわえた
猫背の男。
その男が僕を見てニタリと笑った。
瞬間ゾクゾクッと武者震いを起こした。
ドキドキが止まらない。
高鳴る鼓動に落ち着けと叱咤する。
今度は僕に向かって手招きをしている。
来いという事なのか?
動悸を抑えながら一歩洋館に足を進めると男が満足そうな笑みを浮かべたのが目に入った。