「おめでとうございます」
「えっ」
ホテルの部屋に入るなり行き成り
竜崎から祝いの言葉を貰った。
「おめでとうって一体何がだい?」
解らず僕は彼に問うた。
竜崎は目の前のケーキから視線をずらす事無く
答えた。
「今日は月くんの誕生日ではないですか」
「あぁ、そういえばそうだね」
裁きに夢中でそんな事すっかり忘れていたよ。
素っ気無い調子で答えた僕の言葉に
漸く竜崎はケーキから視線を外した。
僕を不思議そうに見上げる。
「嬉しくないのですか?」
「普通だね。もう喜ぶような歳でもないし」
「確かに」
そう言うと竜崎は又視線をケーキに移し、食べ始めた。
大きめのショートケーキが徐々に無くなって行く。
これを一人でこいつが食しているのかと思うと具合が悪く為ってきた。
僕には絶対真似出来ないし、こいつの胃袋は絶対異常だ。
僕の視線に気付いたのか、竜崎が見上げる。
視線が合う。
「ケーキ食べたくなったのですか?」
そして見当違いな事を言った。
僕は心の内を押し隠し、彼に笑いかける。
「別にそうじゃないよ。唯よく食べるなって思っただけだ」
「そうですか」
そう言うと、竜崎は徐にケーキの上の苺をフォークで突き刺した。
それを僕に掲げる。
「どうぞ」
「いいのかい?」
彼が好物は最後に残すタイプだ。
何時もショートケーキを食べる時彼は最後に苺を食す。
そんな大事な苺を僕にくれるらしい。
「いいですよ。今日は月くんの誕生日なのですし、
私が上げられるものといえば此れ位しかありません。
それとも此方のケーキがいいですか?」
甘ったるい匂いを放つケーキの皿を差し出された。
「いいや、苺で結構」
軽く引き攣った笑いを浮かべ、フォークに刺さった苺を
食した。
果肉を押し潰す度、甘酸っぱい味と苺独特の香りが口腔に広がる。
「有難う。とても美味しい苺だね」
「ええ、ここの苺は菓子として使うには珍しい紅ほっぺを
使用しているようです」
「紅ほっぺって聞いた事ない品種だ」
「ええ、何でも未だ栽培が始まったばかりのようですから
主流ではないですね」
そういうと竜崎は残りのケーキを食べ始めた。
僕はそのケーキが残らず綺麗に食される様を、唯見ていた。
「月くんは何か欲しいものとかありますか?」
ケーキを綺麗に完食し、食後の紅茶を飲む竜崎が問いかけてきた。
「行き成りどうしたんだ?」
向かいに座る僕は顔を上げる。
「いえ、今日は誕生日ですし、何か欲しいものでもないのかと
思いまして」
「君は先僕に苺をくれたじゃないか」
「そうですが」
歯切れが悪い竜崎に僕は微笑みかける。
「あの苺でいいよ。特に欲しいものもないし、何より君という友達から
貰ったのだから、それだけで嬉しい事だ」
「そうですか。そう言って貰えると私も嬉しいです」
浮ついた僕の言葉に竜崎がそう答え、
目の前の紅茶を飲み下す。
僕は笑みを浮かべそんな彼を見詰めた。
本心を隠して。
ねぇ竜崎、僕の欲しいものを聞いたら
君は僕にそれを差し出してくれるのかな?
僕が欲しいものは唯一つ
君の命。
それだけだよ。